醤油の匂いと凪いだ海

角田光代『八日目の蝉』が今日で読売夕刊紙上での連載を終了。


悲しくも惹き付けられるお話でした。


物心つかない頃とはいえ、あれほど懐いて
共に幸せに暮らしてきた女性を、自分の本当の家庭を壊し
世間の好奇の目に晒される原因をつくった憎むべき人間として
認識せざるを得なかった娘。


望んで、奪われ、逃げて、奪われ、
ついにはその手に何一つ残されずただ時間と未来と希望を失った女性。


皮肉にも憎み続けた女性と同様に相手に望まれない子を身ごもってしまった娘と、
娘を伴っている時のように世間に残る自らの犯罪の記憶から逃げ続ける女性。


そんな彼女らがすがるように向かっていったのは、
最も幸せな思い出の残るあの島だった―――


互いの顔も知らず、フェリー乗り場でニアミスをするふたり。


すっかり妊婦然とした娘を女性は眩しそうに眺める。
彼女が今でも心の拠りどころにしているあの娘だと知らずに。


お腹の子に自分の心に残るあの風景を見せるため、フェリーに乗り込む娘。
どうしてもあの島に行けない女性。


互いに互いの存在にとうとう気付かず、別れていくのが辛くて。
十数年前までは確かに『家族』であったのに、今ではただの他人なのが哀しくて。
そんな娘が今でも心の大きな部分を占めている女性が切なくて。


子どもを産むことなく、未だにあの島に帰れない女性と
出産を決心しあの島に渡る娘が対照的で、
それだけにあの女性の不幸さが際立って感じられました。



ああ、終わっちゃったんだなあ…。