ヒヤヒヤ多摩サイ(5/5)

「あった!」


とうとう見つけました。恐怖から逃れる突破口を。
金網の継ぎ目のわずかな隙間のような出入り口に体当たりするかのように
自転車ごと飛込み、無我夢中で公道へ逃れました。


「屋根!屋根!とにかく身を隠せる場所!」


多摩サイを脱出した後も絶え間なく続く底響きのする音と一瞬の光。
必死でとあるお店の横の倉庫のような車庫のような
自転車置き場のような建物の中に身を滑り込ませました。


「まあ、ゆっくりしていきなよ。この雨は時間がかかりそうだしさ」


お店のひとの言葉にほっとして、ようやく人心地ついたのでした。


雨は、私が屋根の下に逃れてすぐ勢いを増し、
蛇口いっぱいにひねったシャワーのようにドバドバと降り注ぎ
風が吹けば雨の落ちる線が歪んでいるのが判るほど。


それにしても、あれだけの数と大きさと
あれほど光と音のタイムラグの短いカミナリは初めてでした。


正直、心底怖かったです。
ヤクルト時代にカミナリで制球を乱して
負け投手になった現オリックス吉井理人投手を笑えませんね。


小一時間ほどで明るくなって雨も止み、
お店のひとにお礼を言ってその場を後にしたときには
すっかり元の青空に戻っていました。


途中の狛江では河川敷に入る消防車を目撃し、
行きに寄った時はカラカラに干からびていて
細くチョロチョロと流れていただけだった喜多見の野川は
幅いっぱいに轟々と流れ下りる濁流と化していたのでした。
落ちたら、まず助からなさそうな野川なんて初めてです。



ああ、生きて戻れてよかった。