これからの森薫

今月のコミックビーム『エマ』本作が終了して、
今後数回に渡って脇役のひとにスポットを当てた外伝を
掲載して連載に幕を下ろすとのことなのですが、
これからの森薫はちょっとイバラの道なのでは、と思うのです。


まず、『エマ』という優れた作品を、初連載で世に出したこと。
私がこの漫画を読み始めたのは、連載が始まって随分経ってからで
それまでは「巷で流行ってる漫画」ということで
なんとなく敬遠していたのです。


それが何かの拍子でこの『エマ』を読んでみたら
「これはちょっと凄いぞ」と。
薄紙を一枚一枚積み重ねるように丹念に丁寧に動いていく場面。
それに背景の書き込みの密度の濃さが相まって
近代英国の重厚な雰囲気を見事にかもし出しています。


作者の近代英国に対する溢れんばかりの愛情や
描き手としてのパワーがガンガン伝わってくる
この作品の素晴らしさは、
私が抱いていたイメージを一変させるのに十分過ぎるほどでした。


これだけの作品を初連載で出してしまった以上、
次回作には相当の期待をされることでしょう。
『エマ』を超えるもの、少なくとも肩を並べるものでなければ
「停滞」と受け取られかねません。


イバラの道であるというもうひとつの理由、
それは切り札ともいえるテーマを
既に出してしまったのでは、ということ。


例えば、曽田正人にとってのF1ほどの位置付けであるテーマを
既に使ってしまったのでは、という危惧。
彼は『シャカリキ!』という傑作を発表した後でも
まだ「いちばん描きたいテーマ」という切り札が残されていましたが、
森薫にそのカードは残されているのか。


あの作品からほとばしるパワーの源が
作者のテーマに対する並々ならぬ思い入れなのだとすれば、
次回作においても果たしてそれだけのものを抱けるかどうか。
そこが心配なのです。


ビームに見出され磨かれたこの素晴らしい才能が
それに相応しい成長を続けること、それをただ祈るばかりです。